シネマヴェーラ渋谷「成瀬になれなかった男 映像作家・千葉泰樹」3
シネマヴェーラ渋谷「成瀬になれなかった男 映像作家・千葉泰樹」へ。 『みれん』『大番』2本立て。
『みれん』 売れない作家・仲谷昇の愛人をズルズル続ける織物の図案作家・池内淳子。
ある日のこと駆け落ちした青年・仲代達矢と再会しやけぼっくいに火が付いて…。と、いうストーリーです。
う~ん、正にタイトル通り『みれん』。 みんな煮え切らなくて「おい、はっきりしろよ」と観ててイライラします。
まあ、そう思わせることはある意味「成功」なのかもしれません(笑)
とにかく池内淳子が良かったです。この人ありきの映画ではないかと。 仲谷昇から「君は負け犬が好きなんだよ」なんて言われちゃうんですが、
そんな感じがとても良く出ているのではないかと。 強さと弱さを併せ持つ恋多き女性がニンに合います。 セリフ回しも落ち着いているので聞きやすいですよねぇ。
口調等が白川由美に少し似てるような気がしました。 着物を着て日傘を差してハンケチで汗を拭き拭き歩くシーンなんぞも出て来ましたが、
「昔の夏」の雰囲気がとてもよく伝わりました。
仲谷昇もはっきりしない男でして…。そんな所をウマく表現しておりました。
やる気があるんだか、無いんだか。 でもね、通い夫ってナンだよなぁ。「こんなのアリかよ」ってツッコみまくりです(笑) 仲谷昇も良かったですが、例えば芥川比呂志とか森雅之とかどうすかね。
そんなことを考えるのも楽しい。
本妻の岸田今日子も「おい、ダンナを何とかしろよ」とか思っちゃうワケで(笑) 登場シーンは一瞬ですが、これが衝撃的でした。
仲代達矢が、煮え切らない池内淳子にイライラする感じもよく伝わって来ました。 それ観てこっちも「どうにかしろよ」と思うんですよねぇ。
少ししか出て来ないのですが、大家役の乙羽信子・作家仲間の西村晃と山岡久乃・編集者の名古屋章は
良い味を醸し出しておりました。
『大番』 ようやく第1作を観ることが出来ました。 ギューちゃんが東京に出てきたところから始まって、株屋での小僧奉公から独立してというストーリです。
いやぁ、やっぱりこの第1シリーズが一番面白かったなぁ。
ギューちゃん(加東大介)が生き生きしてるんですよねぇ。 田舎から出てきた素朴で少々がさつなギューちゃん。 ドジだけど生真面目で物覚えも良いギューちゃん。 義理堅いギューちゃん。 大飯食らいのギューちゃん。 上昇志向が強いギューちゃん。 そして女に弱いギューちゃん。 全てのギューちゃんがとても魅力的。ひいては加東大介の魅力全開。
宇和島時代の話を問わず語りするんですが、これも大笑い。 若衆宿で三木のり平から夜這いの講習(笑)を受け、駄菓子屋の後家・清川玉枝に夜這いに行くシーン。 代筆してもらったラブレターを謄写版で何枚も印刷し片っぱしから渡そうとする。
そして名家の令嬢・可奈子(のちの原節子)にも渡してしまい大問題になるシーン。 いやぁ、みんな愉快。
株屋の先輩でのちに相棒になる仲代達矢は正に「好青年」という感じで
ギューちゃんを温かく見守るのが微笑ましい。 ギューちゃんは歌舞伎座で原節子に会うワケですが、
この登場シーンも「いかにも原節子」という感じでした。 ギューちゃんの見惚れる顔と動きも「いかにも」です(笑)
お互いに惹かれっていくおまきさん(淡島千景)もとてもいじらしい。 可愛らしさと強さと女の弱さがちらりと垣間見えました。ステキ。
チャップリンさん(東野英治郎)も実に味のある良いキャラクターですね。 宇和島の方言や株の専門用語等はとても難解でしたが、
そんなことも含めて「当時のさまざまの雰囲気」がよく伝わりました。
あ、そうそう。「夜這い」のシーンで 「(都会者は恋愛をするから)好きになってから手を出すけど、(田舎者は)手を出してから好きになる」 ってセリフがとても面白く印象に残りました。「そら、そうだ」と妙に納得(笑)
タイトルの字体とテーマ曲もとても良かったです。