シネマヴェーラ渋谷「没後五十年メモリアル 孤高の天才・清水宏」『母のおもかげ』『花形選手』
シネマヴェーラ渋谷「没後五十年メモリアル 孤高の天才・清水宏」へ。
『母のおもかげ』『花形選手』2本立て。
『母のおもかげ』 清水宏最後の劇場公開映画だそうです(昭和34年)。
小学生の男の子の父が再婚して、新しい母と妹がやってくるが…。というストーリーです。
いやぁ、泣けました。何回も泣いちゃった…。
少年役の毛利充宏が「義理の母親も優しくて好きだけど、実の母親が忘れられない」 そして「その為に継母に距離を置こうとするような心情」を見事に演じておりました。 甘えたいけど、実母に申し訳ないような気持ち。揺れ動く心情。 ワタシはこういう環境にあったワケじゃないですが、何となく分かるような気がします。 で、周りの大人が少年の心の内までは分かっていない(決して悪気はないんでしょうが)のも 観てて歯痒さをとても感じましたし、感情移入しちゃいます。 お母さんの形見の伝書鳩を妹が逃がしてしまい、 それを知った時のシーンが特に印象に残りました。
そして継母役の淡島千景も息子は可愛い。目一杯の愛情を降り注ぐ。 でも、なかなか懐いてくれない。その困惑。 そんな所が凄くよく出ているのではないかと。 淡島千景ってどんな役どころもピタッとハマるんですよねぇ。 そして凛として美しい…。
優しい父親役の根上淳、父子の親戚で仲人夫婦(豆腐屋さん)見明凡太朗と村田知栄子・ その娘役の南左斗子。 淡島千景の下宿のオバちゃんで仕事先の同僚役・清川玉枝等。 周りの人間も親切で(良い意味での)おせっかい焼きで。 良い人ばっかりなので嬉しくなっちゃう。 淡島千景の娘役の安本幸代(子役)も可愛らしくて…。
昔の庶民の足でもあったであろう当時の水上バスを観られたのも嬉しい。 夜の道を継母・兄妹と3人で手を繋いで帰っていくところを 後ろから映して終演するラストも良かった…。めでたしめでたし。
この映画はあまり有名じゃないようですが、 子どもの心理描写・撮り方がウマい清水宏の面目躍如。
母の日にこういう作品を観る。何だか色々考えてしまうところもありますね。
心を打たれる佳品です。
『花形選手』 昭和16年の作品。 大学陸上競技部の選手たちが軍事教練の行軍演習に出掛けるが…。 というストーリー。
主役は佐野周二。 花形選手・いわゆるエースなワケです。
いやぁ、いい男ですねぇ。が、陸上の選手っぽくない?? そこはご愛嬌ということで(笑) あの表情と声で人の良さが滲み出ます。
仲間の笠智衆と本気(?)でトラックを走って競争するシーンとかね、 けっこう貴重じゃないかしら。 笠智衆は当時37歳くらいでしょうか。若々しい。 でも声はもうすでに老け役の頃の笠智衆に近かったりしまして。 そんなギャップ(?)も楽しめます。 佐野周二をブン殴る(ホントに殴ってるっぽい?)ところとか迫力あったなぁ。
行軍する最中に後ろから子どもたちが付いて歩く。 そして選手に憧れている女性軍団が付いてくる。 その他にも色々な人々とすれ違う。 これらを様々な目線・ショットで撮るのも独特なんでしょうね。 ちょっと面白いかも。
門附の女芸人役の坪内美子は美しく、そして薄幸な役どころがニンに合います。
それに絡む佐野周二もまた良かったなぁ。
「勝った方がいい 勝った方がいい」と囃し立てるセリフが何度も出てくるんですが、 これが妙に耳に残りました。 これは「戦意高揚と言いながら実は皮肉っているところもあるのでは」 という意見に大いに納得。
そんなに重い内容じゃないですし、時間も64分と短めなので 観やすい内容なのかもしれませんね。 横移動を用いたロケーション撮影等も堪能出来ます。